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肝機能不全に対する根治的な治療法として肝移植がある。手術方法は確立され安全性も高い手術であるが、移植に用いる肝臓は脳死患者から提供されるため、ドナー数は限られている。日本では特に、血縁関係者からの生体肝移植が行われているが、その数は限定されている。その代替法として肝細胞移植が考えられ、これまで世界中で100例ほど行われているが、一時的な効果は認めるものの肝機能の健常化には成功していない。加えて、ドナーとなる肝細胞も、肝移植に不適合な肝臓から分離するため、移植に用いる細胞数を十分に確保することは困難である。

肝臓より分離した肝細胞には、取り扱いを困難にさせる他の細胞とは異なる特徴がある。

  1. 分離肝細胞をin vitroで増殖させることはできないと考えられている
  2. 肝細胞の持つ高度な分化機能の発現を維持することができない
    • 薬物代謝酵素cytochrome P450活性は培養後24時間でほぼ消失する
    • 様々な培養手法が開発されているが、基本機能であるAlbumin発現を2週間維持するのは極めて難しい
  3. 凍結保存は可能だが、解凍後も機能させるためには厳密な凍結方法を用いる必要がある
    • 解凍後の生存率は、50~60%程度である
  4. 継代培養ができない

我々は、これらの肝細胞培養の問題点を克服すべく研究を行ってきた。
我々が見いだした小型肝細胞は、成熟肝細胞のsubpopulationであり前駆細胞としての性質を有している(詳細は、これまでの研究を参照)。

  • In vitroで増殖させることができる
  • 小型肝細胞は、増殖しているときは一旦分化機能を低下させるが、肝細胞としての基本機能はほぼすべて保持しており、成熟化誘導することにより、長期間培養した後でも高度な分化機能を再発現させることができる
  • 1年以上の凍結保存が可能で、解凍後も小型肝細胞としての特性を維持しており、増殖し成熟化させることができる
  • 培養したラット小型肝細胞を同種ラット肝臓に移植することができる
  • ヒト肝臓において、小型肝細胞が存在する

我々は、小型肝細胞が分離肝細胞の持つ課題の多くを解決できることを明らかにしてきた。小型肝細胞を成熟肝細胞と同等な細胞に誘導することにより、細胞移植のドナー細胞として十分使用可能と考えている。

しかしながら、小型肝細胞を細胞移植のソースとして用いるためには、克服すべき問題が残されている。

「移植に必要な細胞数をどのように確保するか」

我々は、この課題を克服できるよう研究を進めている。

小型肝細胞のself-renewal capability

小型肝細胞をIn vitroで増幅するためには、小型肝細胞の特性を維持しながら継代することが必要である。下記の条件を満たす手法の開発を行っている。

  • 成熟正常ラット肝細胞由来
  • 無血清培養
  • 肝細胞機能を保持
  • 増殖能を維持

成熟ラット肝臓由来の小型肝細胞を継代培養可能な細胞外基質(ECM)の同定を行った。

図1. ヒアルロン酸コート培養皿上で小型肝細胞コロニーを形成させ、コロニーのみを回収し酵素処理によりsingle cellsに分離する。CD44抗体を用いてソーティングをした細胞を様々なECMをコーとした培養皿上で培養し、小型肝細胞コロニー形成率を比較検討した。

剥離した小型肝細胞コロニーを攪拌しながらcollagenaseとhyaluronidaseで30分間処理するとほぼsingle cellsになる。抗CD44抗体を用いてMACS法で陽性細胞をソーティングし、ECMを塗布した培養皿上に播種する(図1)。

図2. Matrigel, 4型コラーゲン、ラミニン、ヒアルロン酸、フィブロネクチンでコートした培養皿上でのコロニー形成効率を調べると、Matrigel上でのみ典型的なCD44陽性小型肝細胞からなるコロニーを形成した。

培養10日後に形成されたコロニーの数と構成細胞数を計測するとMatrigel上に播種した細胞のみが典型的な小型肝細胞コロニーを形成することが分かった(図2)。

図3. Matrigelコートした培養皿で継代培養を行った。4週間培養後、trypsinを用いて剥離した細胞を新しい培養皿上に播種し4回継代を行った。定期的にコロニーの写真を撮り細胞数を計測し、細胞増殖率を推定している。28日目は、大きなコロニーになるので計測はせず3週間目までのデータから推定した。

小型肝細胞の約15%は、継代培養可能で継代毎に分裂回数は漸減するが増殖能を維持している。4回の継代により約4ヶ月間に少なくとも52回は分裂できることが分かった。

図4. 3代目(2nd passage)のCD44陽性小型肝細胞の特性を免疫染色法や透過電子顕微鏡を用いて解析した。

コロニーを構成するすべての細胞は、CD44とalbuminを発現している。超微形態的にも細胞内小胞に富んでおり、肝細胞の特徴を維持している。細胞間に毛細胆管様の構造は見られない。

図5. 3代目の細胞を28日間培養後に単離し、RNA抽出後Microarray (Agilent)により網羅的に遺伝子発現を解析した。単離する2週間前にMatrigelを添加し成熟化誘導した(Mat-BGOL)。

CD44陽性小型肝細胞は、肝細胞としての基本を持ちMatrigel添加によりより成熟肝細胞に似た遺伝子発現パターンを示すようになる。qPCRにより高分化機能遺伝子の一つであるTdo2やCyp発現がMatrigel添加により誘導されることが分かった。

図6. Matrigel添加により成熟化し組織化したコロニーでは、毛細胆管網が形成され、投与されたFluorescence diacetate (FD)を代謝し毛細胆管中にfluorescenceを分泌する。培養液中に分泌されるalbuminは増え、CYP3活性が誘導される。

形成されたコロニーの中で、均一の小型な細胞からなる典型的なコロニーはMatrigel添加により、盛り上がり組織化する。そのようなコロニーでは毛細胆管網が形成され、胆汁を分泌している(図6)。

図7. 継代培養したCD44陽性小型肝細胞をRetrorsine/PHモデルラット肝臓に移植。DPPIV陽性小型肝細胞をDPPIV欠損同系ラットに移植すると、ドナー細胞は生着するとDPPIV(赤色)陽性細胞として同定できる。CD44+ cellsは、肝臓から分離培養し9日後に剥離した小型肝細胞をドナー細胞として用いた。3rd passage cells+Matrigelは、3代目の細胞を7日間Matrigel作用させてから分離し移植した。移植後30日目の肝組織像である。ドナー細胞の一部は小葉間胆管上皮細胞に分化している(黄色矢印)。

継代培養したCD44陽性小型肝細胞を同系ラット肝臓に移植しても生着しないが、Matrigel添加により成熟化誘導を掛けてから移植すると、生着し肝細胞置換できる。また小葉間胆管にも組み込まれることからBipotentialな細胞である。

一部の小型肝細胞は、Matrigel上で継代培養でき、増殖能と肝細胞としての基本機能を保持していることからself-renewal capabilityを持つ細胞といえる。我々は、この細胞を小型肝細胞の親細胞(Hepatocytic parental progenitor cells; HPPCs)と名付けた。

解決すべき課題
  • Matrigelを構成する成分の内、type IV collagenを除くどのECM成分が小型肝細胞のself-renewal能の維持に重要なのか?
  • Self-renewal能はどのようなsignal 系を介して維持されているのか?
  • HPPCsが作るdaughter cellsは継代培養できないが、それは何故か?

参照:Press release

  1. Ishii M, Kino J, et al. Hepatocytic parental progenitor cells of rat small hepatocytes maintain a self-renewal capability after long-term culture. Scientific Reports, Apr 11; 7: 46177 (2017)