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(1)肝幹・前駆細胞移植

ドナー細胞として成熟肝細胞が最適である。成熟肝細胞を確保することは極めて困難であることを考慮すれば、増幅可能な幹・前駆細胞をドナー細胞として用いたい。
我々は、ガラクトサミン投与により肝障害を起こしたラット肝臓において、Thy1陽性肝幹細胞がCD44陽性小型肝細胞を介して成熟肝細胞に分化することを見いだした(Kon J et al. Am J Pathol, 2009)。そこでThy1陽性細胞とCD44陽性細胞をガラクトサミン投与ラット肝臓から分離し、Retrorsine/PHモデルラット肝臓に脾臓経由で移植し、生着率と置換率を計測し、成熟肝細胞移植と比較検討した。

 

図1. オーバル細胞のマーカーとしてThy1を、小型肝細胞(前駆細胞)のマーカーとしてCD44を用いた。GalN投与により肝障害を起こしたラットからThy1陽性細胞とCD44陽性細胞を分離した。二段階肝コラゲナーゼ灌流法を用いて肝臓の細胞を分離する。50xg1分間の低速遠心後、沈殿は成熟肝細胞画分として使用。上清は、50xg 5分間遠心し、沈殿を浮遊させ更に遠心を繰り返し、SH-rich画分として各抗体によるソーティングに用いる。抗Thy1、抗CD44抗体と磁気ビーズを用いたMACS法で細胞を単離する。
(Kon J et al. Am J Pathol, 2009)

 

図2. Retrorsineを2回投与したラットに2/3部分肝切除を行い、同時に脾臓にソーティングした細胞を5×100000個注射する。ドナーとしてDipeptidylpeptidase IV (DPPIV)陽性雄ラットから分離した細胞を使用し、レシピエントとして遺伝的にDPPIV遺伝子を欠損したsyngeneic Fisher344雌ラットを用いた。生着し肝細胞に分化していると毛細胆管面にDPPIVタンパク質を発現し、活性染色で赤く染まる。Thy1陽性細胞、CD44陽性細胞は生着し、肝細胞に分化することがわかった。
(Kon J et al. Am J Pathol, 2009)

 

図3. CD44陽性細胞と成熟肝細胞をRet/PHモデルラット肝臓に移植した。Thy1陽性細胞は、移植巣の数が少なく、評価が困難なため省いている。移植後2週までは、CD44陽性細胞の方が成熟肝細胞に比べて明らかに増殖速度が早い。しかしながら1ヶ月以降、徐々に成熟肝細胞由来の移植巣の方が大きくなる。60日では面積で約3倍大きい。
(Ichinohe N, et al. Cell Transplant, 2012)

 

図4. 初期移植細胞巣の形態。Thy1及びCD44陽性細胞由来の移植細胞巣では、細胞の大小不同が有り、DPPIV陽性の毛細胆管の配列に方向性が見られず、類洞がはっきりしない。一方、成熟肝細胞由来の細胞は、DPPIVの染色像に方向性が見られ、類洞に沿っている。
(Ichinohe N, et al. Cell Transplant, 2012)

 

図5. 移植巣における類洞形成の違いについて客観化を試みた。ラット類洞内皮細胞特異的抗体SE1と成熟化した肝細胞に発現する転写因子C/EBPaに対する抗体を用いて,CD44陽性細胞と成熟肝細胞由来細胞の類洞形成能を比較した。CD44陽性由来細胞巣では、細胞数が20個以下だとSE1陽性細胞は認められなかった。一方、80%以上の成熟肝細胞由来細胞巣では、SE1陽性細胞が類洞を形成していた。類洞形成が見られない細胞巣を構成する細胞にC/EBPaの発現は少なく、類洞形成が移植細胞の成熟化を促進していると考えられる。
(Ichinohe N, et al. Cell Transplant, 2012)

図6. CD44陽性細胞由来細胞巣は、移植後2ヶ月を過ぎるとその数、大きさが著減することがわかった。その原因を検討するために、細胞老化のマーカーの一つであるSenescence-associated b-galactosidase (SA-b-Gal)染色を行い,その発現をCD44陽性細胞及び成熟肝細胞由来細胞巣とで比較検討した。CD44陽性細胞由来細胞巣の約1/3は、SA-b-Gal陽性細胞が多数を占めていることがわかった。成熟肝細胞由来細胞巣では約13%であった。
(Ichinohe N, et al. Cell Transplant, 2012)

ガラクトサミン投与ラット肝臓から分離したThy1陽性細胞の中に肝幹細胞としての能力を有する細胞は少ないことが分かっている。生着効率が悪いのは絶対数が少ないことも大きいとは思われるが、生着した細胞が肝細胞策に組み込まれるためには、生着してからも分化することが必要のようである(図4)。より分化したCD44陽性細胞の場合は生着効率も置換効率も高く、一部は一年以上生着し増殖置換する。一方、Thy1細胞のほぼすべて及びCD44陽性細胞の一部は、レシピエント肝臓内で生着・増殖しても時間が経つと細胞老化を起こし、消失する。増殖可能なレシピエント肝細胞が排除していると考えられる。成熟肝細胞は完全にレシピエント肝細胞と同化し、消失することは無いことから、ドナー細胞はできるだけ成熟肝細胞に近い成熟度を有する必要がある。

  1. Kon J, Ichinohe N, Ooe H, Chen Q, Sasaki K, Mitaka T. Thy1-positive cells have bipotential ability to differentiate into hepatocytes and biliary epithelial cells in galactosamine-induced rat liver regeneration. Am J Pathol, 175(6): 2362-2371 (2009)
  2. Ichinohe N, Kon J, Sasaki K, Nakamura Y, Ooe H, Tanimizu N, Mitaka T*. Growth ability and repopulation efficiency of transplanted hepatic stem, progenitor cells, and mature hepatocytes in retrorsine-treated rat livers. Cell Transplant, 21(1): 11-22 (2012)