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(3)スキャフォールド(Scaffold)を利用した肝組織形成
(3)-3 多孔性薄膜用いた肝組織形成

(慶應大学理工学部 谷下一夫名誉教授・須藤亮准教授との共同研究)

1)ポリカーボネート薄膜を用いた小型肝細胞サンドイッチ培養

ポリカーボネート(polycarbonate)製の多孔性薄膜上で小型肝細胞を培養し、コロニーが形成され拡大したときに、2枚の薄膜を小型肝細胞同士が接触するように重層化し、人工的に3次元構造を作成する。小型肝細胞は成熟化し、対面の小型肝細胞間に毛細胆管が形成される。組織形成に伴いアルブミン分泌は増加し、成熟化していく。一方、成熟肝細胞(Primary hepatocytes)を同様に培養し重層するとアルブミン分泌は徐々に減少する。

図1

図1. 重層化した小型肝細胞による肝組織形成の模式図。ポリカーボネート(Polycarbonate)膜上でラット小型肝細胞を培養する。コロニーが形成された培養2週間目頃に2枚の膜を細胞が対面するように重層し、培養を継続する。重層した小型肝細胞は成熟化し、接着面に毛細胆管を形成する。
(Sudo R, et al. FASEB J, 2005)

図2

図2. 小型肝細胞の接着面に形成された毛細胆管網。毛細胆管面に発現することが知られているタンパク質の蛍光染色像。EctoATPase, Multidrug-related protein 2, 5’-Nucleotidaseとactinの2重染色。右は、透過電子顕微鏡写真。
(Sudo R, et al. FASEB J, 2005)

図3

図3. Fluorescein diacetate (FD)を投与すると、肝細胞に代謝され毛細胆管に分泌されたFluoresceinによって接着面に形成された毛細胆管網が明瞭になる。
(Sudo R, et al. FASEB J, 2005)

2)in vitro類洞形成

肝類洞は、師板(fenestration)を持つ類洞内皮細胞からなる毛細血管の外側にディッセ腔(Space of Disse)を介して肝細胞が配列する特殊な構造を呈する。血流路側にクッパー細胞(Kupffer cell)、ディッセ腔内に星細胞(Stellate cell)が局在する。この構造をin vitroで再現することを目指した。成熟ラット肝臓から分離した小型肝細胞画分には小型肝細胞と非実質細胞である星細胞とクッパー細胞が含まれている。小型肝細胞は自己組織化能力があり、星細胞との相互作用により成熟化・組織化することが分かっている(Mitaka T et al, Hepatology, 1999)。類洞内皮細胞も分離当初は存在しているが、培養後数日で消失するため、代わりにウシ血管内皮細胞を用いて類洞のin vitro再構成を目指した。

図1

図1. 多孔性薄膜としてcell culture insertを用い、小型肝細胞画分の細胞を底面に培養し、2週間後に血管内皮細胞を上面に播種し培養する。
(Kasuya J et al, Tissue Eng A, 2011)

図2

図2. 血管内皮細胞を播種する前の培養細胞の免疫染色像(赤:CK8, 緑:desmin)。CK8陽性小型肝細胞と薄膜に挟まれてdesmin陽性星細胞が局在する。薄膜の孔(径1.0 mm)を通って星細胞の細胞突起が薄膜表層に広がっている。
(Kasuya J et al, Tissue Eng A, 2011)

星細胞本体が通らない細胞突起のみが通るサイズの孔で隔離すると血管内皮細胞はよく接着する。星細胞は活性化されず静止状態でよく細胞外基質を分泌し、星細胞と血管内皮細胞間には基底膜成分がよく分布している。共培養状態では血管内皮細胞は敷石状では無く、紡錘型に配置する傾向を示す。

図3

図3. 共培養による血管内皮細胞の形態変化
(Kasuya J et al, Tissue Eng A, 2011)

血管内皮細胞は、Matrigelで被覆すると血管様構造を形成する。小型肝細胞・星細胞との共培養では、星細胞との接触面積が多いと内皮細胞の血管形成を抑制するが、膜上に星細胞突起が少ない時に血管内皮細胞を播種し、血管形成を先に行うことで星細胞との接触のタイミングを時間的に制御可能である。

図4

図4. 星細胞と血管内皮細胞の接触率による血管形成の効率
(Kasuya J et al, Tissue Eng A, 2012)

図5

図5. 星細胞との接触のタイミングを時間的に制御することが血管形成に重要
(Kasuya J et al, Tissue Eng A, 2012)

血管形成後に星細胞との接触があると血管様構造は安定化し、長期間維持可能である。血管様構造が形成されると小型肝細胞の増殖が抑制され、大型化・成熟化する。

図6

図6. 小型肝細胞と星細胞、血管内皮細胞の薄膜を介する共培養(Tri-culture)における小型肝細胞の成熟化。2核細胞の増加と増殖率の低下。肝細胞機能に関係する遺伝子発現(Realtime-PCR)。

In vitro肝組織形成においては、相互作用する細胞の接触のタイミングと空間的配置が重要である。小型肝細胞が組織化する時には、非実質細胞が徐々に小型肝細胞コロニー下に侵入し、小型肝細胞との相互作用による細胞外基質の産生・基底膜形成が小型肝細胞の成熟化・組織化に必要である。類洞形成においても同様に細胞同士の時間的・空間的配置が重要となっている。星細胞本体と血管内皮細胞が直接接すると血管内皮細胞は減少するが、星細胞本体が通らない細胞突起のみが通るサイズの孔で隔離すると血管内皮細胞はよく接着する。一方、星細胞突起量が多いと接着した血管内皮細胞の血管様構造形成は抑制されるが、培養早期の星細胞突起量が少ない時に血管が形成され、徐々に細胞突起量が増えると血管構造は維持され小型肝細胞の成熟化が誘導される。

肝組織形成において、自己組織化能力を有する細胞を用い時間的要素を加味することは組織の成熟度や維持には必須の要件である。

  1. Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Reconstruction of 3D stacked-up structures by rat small hepatocytes on microporous membranes. FASEB J, 19(12), 1695-1697 (2005)
  2. Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Morphological and functional changes of rat hepatocytes by vertical cell-cell adhesion in three-dimensional stacked-up culture. Journal of Biomechanical Science and Engineering 3 (2): 235–248 (2008)
  3. Kasuya J, Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Hepatic stellate cell-mediated 3D tri-culture model of hepatocytes and endothelial cells. Tissue Eng A, 17(3-4): 361-370 (2011)
  4. Kasuya J, Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Spatio-temporal Control of Hepatic Stellate Cell-Endothelial Cell Interactions for Reconstruction of Liver Sinusoids in vitro. Tissue Engineer A, 18(9-10): 1045-1056 (2012) 
  5. Kasuya J, Sudo R, Tamogami R, Masuda G, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Reconstruction of 3D stacked-up hepatocyte tissues by degradation of microporous poly (D, L-lactide-co-glycolide acids) membranes. Biomaterials, 33(9): 2693-2700 (2012)
  6. Kasuya J, Sudo R, Masuda G, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Reconstruction of hepatic stellate cell-incorporated liver sinusoidal structures in small hepatocyte tri-culture using microporous membranes. J Tissue Eng Regen Med (TERMS), 9(3): 247-256 (2015)