Home > 研究紹介 > 肝組織形成

肝組織形成

肝細胞や胆管上皮細胞は、非実質細胞や細胞外マトリックスと相互作用しながら、立体的な組織構造を構築している。我々は、小型肝細胞が血管内皮細胞や星細胞と協調して、毛細胆管構造や類洞構造を再現する系を確立した。また、胆管上皮細胞から胆管組織をin vitroで作成することにも成功している。これらの成果をもとに、肝細胞索や胆管と血管構造が一体となった肝組織(小葉構造)を再現することを目指している。

(1)正常ラット肝小葉構造
(2)ラット小型肝細胞による類肝組織形成
(3)スキャフォールドを利用した肝組織形成
(3)-1 紙(Paper)
(3)-2 コラーゲンスポンジ(Collagen Sponge)
(3)-3 多孔性薄膜用いた肝組織形成
(4)In vitro胆管形成
  1. Mitaka T, Sato F, Mizuguchi T, Yokono T, Mochizuki Y. Reconstruction of hepatic organoid by rat small hepatocytes and hepatic nonparenchymal cells. Hepatology, 29(1), 111-125 (1999)
  2. Mizuguchi T, Mitaka T, Sato F, Mochizuki Y, Hirata K. Paper is compatible bed for rat hepatocytes. Artificial Organs, 24(4), 271-277 (2000)
  3. Harada K, Mitaka T, Miyamoto S, Sugimoto S, Ikeda S, Takeda H, Mochizuki Y, Hirata K. Rapid formation of hepatic organoid in collagen sponge by rat small hepatocytes and hepatic nonparenchymal cells. J Hepatology, 39(5), 716-723 (2003)
  4. Sudo R, Ikeda S, Sugimoto S, Harada K, Hirata K, Tanishita K, Mochizuki Y, Mitaka T. Bile canalicular formation in hepatic organoid reconstructed by rat small hepatocytes and nonparenchymal cells. J Cell Physiol, 199(2), 252-261 (2004)
  5. Sudo R, Kohara H, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Coordinated movement of bile canalicular networks reconstructed by rat small hepatocytes. Annals of Biomedical Engineering (Ann Biomed Eng), 33(5), 696-708 (2005)
  6. Sugimoto S, Harada K, Shiotani T, Ikeda S, Katsura N, Ikai I, Mizuguchi T, Hirata K, Yamaoka Y, Mitaka T. Hepatic organoid formation in collagen sponge of cells isolated from human liver tissues. Tissue Engineering, 11(3-4), 626-633 (2005)
  7. Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Reconstruction of 3D stacked-up structures by rat small hepatocytes on microporous membranes. FASEB J, 19(12), 1695-1697 (2005)
  8. Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Maintenance of cell morphology and function by vertical cell-cell adhesion in three-dimensional stacked-up culture of rat hepatocyte. Journal of Biomechanical Science and Engineering 3 (2): 235–248 (2008)
  9. Sudo R, Takahashi N, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. The effect of micropatterned pores on the formation and movement of small hepatocyte colonies. Journal of Biomechanical Science and Engineering 3 (2): 249–262 (2008)
  10. Hashimoto W, Sudo R, Fukasawa K, Ikeda M, Mitaka T, Tanishita K. Ductular network formation by rat biliary epithelial cells in the dynamical culture with collagen gel and dimethylsulfoxide stimulation. Am J Pathol, 173(2), 494-506 (2008)
  11. Kasuya J, Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Hepatic stellate cell-mediated 3D tri-culture model of hepatocytes and endothelial cells. Tissue Eng A, 17(3-4): 361-370 (2011)
  12. Kasuya J, Sudo R, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Spatio-temporal Control of Hepatic Stellate Cell-Endothelial Cell Interactions for Reconstruction of Liver Sinusoids in vitro. Tissue Engineer A, 18(9-10): 1045-1056 (2012)
  13. Kasuya J, Sudo R, Tamogami R, Masuda G, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Reconstruction of 3D stacked-up hepatocyte tissues by degradation of microporous poly (D, L-lactide-co-glycolide acids) membranes. Biomaterials, 33(9): 2693-2700 (2012)
  14. Kasuya J, Sudo R, Masuda G, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Reconstruction of hepatic stellate cell-incorporated liver sinusoidal structures in small hepatocyte tri-culture using microporous membranes. J Tissue Eng Regen Med (TERMS), 9(3): 247-256 (2015)

(1)正常ラット肝小葉構造

肝小葉は、中心静脈を中心にグリソン鞘(Glisson sheath)が六角形の頂点に配置するような構造を呈している。肝細胞は、グリソン鞘周囲の限界板(Limiting plates)と呼ばれる肝細胞から中心静脈に向かい1,2細胞の厚さで二十数個細胞が並んだ肝細胞索(Liver plate)を形成している。索と索の間には類洞(Sinusoid)が存在し、門脈と肝動脈からの血液が中心静脈に向かって流れる。肝細胞間には毛細胆管が形成され、分泌された胆汁を小葉間胆管に向かって運搬する。

図1. 肝小葉構造模式図

類洞は、小孔(fenestration)を有する一層の内皮細胞で作られている。類洞内皮細胞(Sinusoidal endothelial cells; SECs)と肝細胞の間にはディッセ腔(Space of Disse)と呼ばれる隙間がある。類洞内には、クッパ-(Kupffer)細胞やピット(Pit; Natural killer cell)細胞が常在し、ディッセ腔には、星(Stellate;伊東)細胞が常在する。肝細胞や類洞内皮細胞には基底膜が存在せず、代わりに4型コラーゲンやラミニンなどの細胞外基質がディッセ腔内に薄く存在している。肝細胞は、類洞に面する細胞膜が基底膜面(basal domain)又は類洞面(sinusoidal domain)と呼ばれ、毛細胆管を形成している細胞膜が毛細胆管面(bile canalicular domain)又は頂点面(apical domain)であり、細胞接着面が側面(lateral domain)である。栄養物質や代謝産物の出入は類洞面から胆汁成分の分泌は毛細胆管面から行われる。

図2. 肝細胞策と類洞の模式図

図3. 毛細胆管と小葉間胆管を結ぶヘリング管

肝細胞が索状に配列し、細胞間には毛細胆管が形成され、肝細胞索に沿って毛細血管が存在する。このような複雑な組織体をIn vitroで作ることは可能であろうか?
我々は、小型肝細胞と非実質細胞との共培養、また胆管上皮細胞によって再構築される胆管を組み合わせることにより、高い肝細胞機能を持つ類肝組織の形成を目指している。

  1. 泉井 亨、金田研司。カラー図解 人体の正常構造と機能 IV肝・胆・膵。日本医事新報社、2001年

(2)ラット小型肝細胞による類肝組織形成

小型肝細胞の培養を長期に行うと、盛り上がり組織化した小型肝細胞は、2,3細胞の厚さからなる索状構造をコロニーの上に作り、コロニーの外側に突起状に伸びていく。右図は、培養84日目に見られた小型肝細胞コロニーで、突起状に伸長していることがよくわかる。突起の伸長方向に一定の傾向はない。

図1

図1. 肝小葉構造模式図と培養皿状に形成された類肝組織から突起状(索状)に伸張する小型肝細胞。肝細胞策と相似していることが分かる。

培養皿上に形成される索状構造は、2,3細胞の厚さからなり細胞間に毛細胆管様構造が見られる。毛細胆管様構造は、収縮と拡張を繰り返し、胆汁の運搬を行っていることがわかる( 肝臓の再生―組織化と毛細胆管形成を参照)。

図2

図2. 組織化した小型肝細胞はコロニーから突起状に伸張する。2〜4細胞の厚さで中央に毛細胆管様構造が見られる。

播種した細胞の中には、小型肝細胞ばかりではなく、星細胞、肝上皮様細胞、クッパ-細胞、類洞内皮細胞など存在する。類洞内皮細胞は増殖せず、1週間以内でほぼ全て消失する。小型肝細胞は増殖しコロニーを形成する一方、肝上皮様細胞や星細胞も増殖する。2週間ほど培養すると、肝上皮様細胞や星細胞は小型肝細胞コロニーと接触し、それらの細胞はコロニーの下に潜り込む。星細胞は4型コラーゲンやラミニンなどの細胞外基質を分泌し、小型肝細胞の基底側に蓄積する。基底膜様構造が形成されるにつれ小型肝細胞は大型化し、成熟する。

図3

図3.小型肝細胞と肝非実質細胞による類肝組織形成過程の模式図。
(Mitaka T et al, Hepatology, 1999)

  1. Mitaka T, Sato F, Mizuguchi T, Yokono T, Mochizuki Y. Reconstruction of hepatic organoid by rat small hepatocytes and hepatic nonparenchymal cells. Hepatology, 29(1), 111-125 (1999)
  2. Sudo R, Ikeda S, Sugimoto S, Harada K, Hirata K, Tanishita K, Mochizuki Y, Mitaka T. Bile canalicular formation in hepatic organoid reconstructed by rat small hepatocytes and nonparenchymal cells. J Cell Physiol, 199(2), 252-261 (2004)
  3. Sudo R, Kohara H, Mitaka T, Ikeda M, Tanishita K. Coordinated movement of bile canalicular networks reconstructed by rat small hepatocytes. Annals of Biomedical Engineering (Ann Biomed Eng), 33(5), 696-708 (2005) 

(3)スキャフォールド(Scaffold)を利用した肝組織形成

こちらに文章や図表を入力します。自由にお試しください。

(3)スキャフォールド(Scaffold)を利用した肝組織形成
(3)-1 紙(Paper)
(3)-2 コラーゲンスポンジ(Collagen Sponge)
(3)-3 多孔性薄膜用いた肝組織形成

(4)In vitro胆管形成

(慶應大学理工学部 谷下一夫名誉教授・須藤亮准教授との共同研究)

正常ラット胆管上皮細胞を用いて培養皿上に胆管を再構築し、肝細胞と共培養することで肝組織の再構築を目指します。

図1

図1. 成熟ラット肝臓を二段階コラゲナーゼ肝灌流法を用いて灌流し、細胞を分離する。よく細胞を振るい落とすとグリソン鞘を主とする結合組織が残る。更にコラゲナーゼとディスペース、ヒアルロナーゼなどの酵素液を用いて結合組織を分解し、胆管上皮細胞を分離する。

図2

図2. コラーゲンゲル上で培養した正常ラット胆管上皮細胞。増殖する胆管上皮細胞の上をコラーゲンゲルで覆いサンドイッチ培養を行うと増殖は抑制され細胞の配置が徐々に変わる。管腔構造が形成され、管腔が網目状に繋がった構造に変化する。

図3

図3. 管腔形成に伴い胆管上皮細胞に極性ができる。管腔側にアクチン線維が集積し、apical面が形成されていることがわかる。10日目では管腔形成が見られる様になり、15日目で明瞭な内腔(Lumen)を形成した胆管上皮細胞が配列している。培養経過と共に内腔は拡大し、大きな管腔を形成する。

図4

図4. 胆管様構造を形成する胆管上皮細胞の機能。セクレチン投与に反応し、細胞質内に散在していたAE2、 CFTRタンパク質は、apical面に移動し、内腔内への物質の分泌に働くようになる。

胆管上皮細胞は、コラーゲンゲルサンドイッチ培養することで小細胆管を形成し、1%DMSO添加により更に大きな細胆管様構造を形成する。胆管様構造を形成する細胞は極性を持ち、セクレチン投与によりAE2やCFTRタンパク質は内腔側(Apical面)に移動する。In vitroで機能を持つ細胆管網を形成させることができた。

  1. Hashimoto W, Sudo R, Fukasawa K, Ikeda M, Mitaka T, Tanishita K. Ductular network formation by rat biliary epithelial cells in the dynamical culture with collagen gel and dimethylsulfoxide stimulation. Am J Pathol, 173(2), 494-506 (2008)